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大阪地方裁判所 昭和51年(わ)1576号 判決 1977年4月28日

被告法人

主たる事務所の所在地

大阪市阿倍野区阿倍野筋一丁目六番一六号

名称

医療法人 博仁会

(代表者 小野博人)

被告人

本籍

大阪市阿倍野区阿倍野筋一丁目四七番地

住居

同市住吉区万代西二丁目三五番地

歯科医師

小野博人

昭和一九年一月三一日

右両名に対する法人税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官足達襄出席のうえ審理を遂げ、次のとおり判決する。

主文

被告法人医療法人博仁会を罰金三五〇万円に、

被告人小野博人を懲役四月に、

それぞれ処する。

被告人小野博人に対し、この裁判確定の日から二年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告法人医療法人博仁会は大阪市阿倍野区阿倍野筋一丁目六番一六号に主たる事務所を置き歯科医業を営むもの、被告人小野博人は同法人の理事長としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人小野博人は、同法人の理事小野アイと共謀のうえ、同法人の業務に関し法人税を免れようと企て、

第一、被告法人の昭和四七年四月一日から昭和四八年三月三一日までの事業年度において、その所得金額が二二九八万三、四五七円でこれに対する法人税額が八一八万三、七〇〇円であるのにかかわらず、公表経理上自費診療収入の一部を除外し仮名又は無記名の定期預金をするなどの行為により、右所得金額のうち二〇六九万〇、二六九円を秘匿したうえ、昭和四八年五月三一日、大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇第二九号所在阿倍野税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二二九万三、一八八円で、これに対する法人税額が六四万二、〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税七五四万一、七〇〇円を免れ、

第二、被告法人の昭和四八年四月一日から昭和四九年三月三一日までの事業年度において、その所得金額が一六六二万〇、一三九円で、これに対する法人税額が五八〇万三、八〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額のうち一五二九万六、七〇二円を秘匿したうえ、昭和四九年五月三〇日、前記阿倍野税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が一三二万三、四三七円で、これに対する法人税額が三二万八、八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税五四七万五、〇〇〇円を免れ、

第三、被告法人の昭和四九年四月一日から昭和五〇年三月三一日までの事業年度において、その所得金額が二二六九万六、五七六円で、これに対する法人税額が八二二万二、一〇〇円であるのにかかわらず、前同様の行為により、右所得金額のうち二〇一二万七、三六六円を秘匿したうえ、昭和五〇年五月二六日、前記阿倍野税務署において、同税務署長に対し、右事業年度の所得金額が二五六万九、二一〇円で、これに対する法人税額が五八万三、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により法人税七六三万九、〇〇〇円を免れ、

たものである。

(立証方法)

財産増減法

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述

一、被告人の検察官に対する各供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、証人小野アイ、同鎌田美穂子、同梶岡秀年の当公判廷における各供述

一、小野アイの検察官に対する供述調書(抄本)、大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、鎌田美穂子の検察官に対する供述調書(抄本)、大蔵事務官に対する各質問てん末書(昭和五〇年一〇月一六日付は抄本)

一、梶岡秀年の検察官に対する供述調書、大蔵事務官に対する各質問てん末書(昭和五〇年一〇月一六日付は抄本)

一、笹木剛、石川郁夫の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一、大内平蔵、藤村清兵衛、橋倉智恵雄、岡林哲夫作成の各確認書

一、橋倉智恵雄作成の供述書

一、大蔵事務官作成の各査察官調査書、各現金預金有価証券等現在高確認書、検察官に対する報告書、確定申告についての各証明書、各脱税額計算書

一、被告法人の登記簿謄本、定款写

一、押収してある決算関係書類一綴、経費明細帳八冊、総勘定元帳一冊、元帳二冊、工事請負契約書一綴(昭和五一年押第七〇四号の一ないし九)

(弁護人の主張に対する判断)

一、弁護人は、「被告法人における金銭の出納・管理はすべて母親である小野アイがこれを掌握しており、判示認定の収入除外についても、専ら同人が事務担当の鎌田美穂子や梶岡秀年に指示してやらせていたことであり、被告人小野博人はこれらにつき全く関知するところがなく、その犯意はもとより、小野アイとの共謀もなかったものである」と主張するので、この点につき判断するに、前掲各証拠によると、被告法人における金銭の出納・管理などその経理面については主として小野アイがこれを掌握しており、鎌田美穂子や梶岡秀年に収入除外を指示しこれによって生じた現金を各銀行預金にまわしていたのも主として小野アイであったことがうかがえるのではあるが、被告人小野博人においても、松原分院における収入除外分の伝票や現金を梶岡秀年から受取っていたこと、被告法人が支出する交際費や各歯科大学の関係教官に対する医師紹介依頼料につき、それらが簿外現金によるものであることを十分に認識していたこと、被告法人が有限会社畠山歯科商店から簿外で金の仕入れをなすつど、小野アイに頼んで簿外現金からその代金を支払ってもらっていたこと、弟と共同で購入した三重県の山林代金の圧縮分についても、小野アイに頼んで被告法人の裏金からその支払をしてもらっていたこと、老朽化した本院の新築資金を捻出するため収入金の一部を裏にして預金にまわすなどの話を小野アイとしていたこと、各事業年度の確定申告書にいずれも自署押印をしていることなどの事実が明らかであり、これらの事実に照らすと、被告法人における具体的な収入除外を指示した者が誰であったかの点は別としても、被告人小野博人にはそれらの収入除外、従ってまた各事業年度における過少申告につき、その認識(少なくとも未必の認識)はもとより小野アイとの共謀があったことは否めない事実であると認められるから、弁護人の右主張は採用しえない。

二、次に、弁護人は、「被告法人が支出した歯科医師募集費等の一部が必要経費として損金に算入されていないが、これらについても損金に算入されるべきである」と主張するので、この点につき判断するに、これらの募集費等の一部が、犯則所得の計算上、損金に算入されず益金に加算されているのは事実であるが、前掲各証拠によっても明らかな如く、これらは租税特別措置法六二条による交際費等の損金算入限度額を超過する交際費等であり、かつ被告人小野博人にはこれらが右限度額を超過する支出であり、損金には算入されないものであることにつき十分な認識があったものと認められる(昭和五一年二月一七日付、同年三月二二日付大蔵事務官に対する各質問てん末書)から、この点に関する弁護人の主張も採用しえない。

三、さらに、弁護人は、「富士銀行松原支店に昭和四七年一〇月二四日設定された三沢名義の定期預金二〇〇万円は、被告法人の収入除外によるものでなく、小野アイが亡夫小野博の遺産の一部として所有している個人財産である」と主張するので、この点につき判断するに、証人小野アイの当公判廷における供述によると、「同女は、昭和三七年に死亡した亡夫小野博の遺産の一部を富士銀行阿倍野橋支店に「鎌田すみ」ないしは「大石すみ」名義(?)で五〇〇万円の定期預金として預けていたところ、満期時にこれを解約し、昭和四七年一〇月同銀行松原支店に移したものである」というのであるが、前掲各証拠を総合すると、富士銀行阿倍野橋支店には、昭和三四年四月から昭和四七年一〇月までの間、「鎌田スミ」、「大石スミ」、「小野アイ」等の名義による定期預金の設定、継続、解約はなかったと認められ、これに反する証人小野アイの右供述は措信し難いし、同銀行松原支店に預けられている三沢名義の定期預金二〇〇万円は、昭和四七年一〇月二四日、一万円札、五千円札、千円札、五百円札等の現金を合わせて新規に設定されており、本件をめぐる諸般の状況に照らし、右預金は結局のところ被告法人の収入除外金より発生しているものと認められるので、この点に関する弁護人の主張も採用しえない。

(法令の適用)

被告法人につき

一、判示各所為

各法人税法一六四条一項、一五九条一項、刑法六〇条

一、併合罪加重

刑法四五条前段、四八条二項

被告人小野博人につき

一、判示各所為

各法人税法一五九条一項、刑法六〇条(所定刑中いずれも懲役刑選択)

一、併合罪加重

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

一、執行猶予

同法二五条一項

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 栗原宏武)

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